色気と植物が織りなす、誰も見たことのない博覧会
「ウルトラ植物博覧会 西畠清順と愉快な植物たち」
オリジナルインタビュー
会場に足を踏み入れた瞬間、目に飛び込んでくるのは、天井まで届きそうな大迫力の木や縦横無尽に枝を伸ばす奇怪な形の木。その間に、小さいけれど世にも不思議な形をした植物が、存在感たっぷりにちょこんと鎮座する。一方、ぐっと近寄って目を凝らすと、その幹の質感や表現の多様さに驚かされる。毛むくじゃらなもの、トゲトゲのもの、くねくね曲がったもの、雄々しく太いもの、自由奔放に広がるもの……。
東京・銀座にあるポーラ ミュージアム アネックスで8月16日まで開催されている、「ウルトラ植物博覧会 西畠清順と愉快な植物たち」。大人も子どもも度肝を抜かれる、これまで誰も見たことのない世界を銀座の街に出現させたのは、希少な植物を探して世界を旅するプラントハンター・西畠清順さんだ。この博覧会に込めた思いを聞いた。
文:いなもあきこ 撮影:越間有紀子
1980年、兵庫県生まれ。150年続く花と植木の卸問屋、「花宇」の5代目。国内外の各地を旅し、珍しい植物を収集するプラントハンターでもある。これまでに集めた植物は数千種類以上。2012年、ひとの心に植物を植える活動、“そら植物園”をスタートさせ、様々なプロジェクトを展開中。日本はもとより海外からの依頼も多く、年間2000件もの案件に応えるため、世界中を飛び回る。今日一番の笑顔で手にしているのは、“世界一卑猥な種子”といわれる「フタゴヤシ」。
――遠目に見て植物の形と存在感に驚き、近づいて見てその質感とストーリーの面白さに引き込まれます。今回の展覧会のテーマはどんなものですか?
ご存知の通り、おれはアーティストでもデザイナーでもないので、自分の作品を展示して見てほしかったわけではありません。純粋に“植物そのもの”を博覧する、というのが今回の最大の特徴なんです。それがまた、何気ないけどストーリーを知ると「へえ?」という植物から、見た目からしてとんでもない植物まで、各国から集まった約50種類が銀座で一堂に会している。それ自体が“非日常”ですよね。それがこの会のいいところなんじゃないかなと思います。
――会場は真っ白な壁と台で構成されているせいか、確かに植物自体に目がぐっと引き付けられますね。
ええ、ジャングルみたいな空間かなと思って来ていただいたら、ちょっと意表をつく感じかもしれませんね。ポイントは、いかに観葉植物に見えないか、ということ。植木鉢にスタイリングされた植物があります、みたいな見え方にしたくなくて、植物の質感とか空気感とかフォルムがよく目立つように、できるだけニュートラルな白い背景にしました。植物そのものを見てもらいたいから、白い布を敷いて、あえて土を見せない工夫もしています。ワイルド感が引き立つし、縦に裂けているところからニョキッと植物が出てくるのって、なんかちょっとエッチでしょ(笑)。
――確かに(笑)。植物と色気って、すごく斬新な組み合わせです。
いや、むしろ、色気の話をせずに、植物のことなんかしゃべれるか、っちゅう感じですよ(笑)。おれは一つひとつをいつも眺めながら、「ああ、色っぽいなあ」とか、「こいつ、オッサンの○○毛みたいやな」とか、そんなことばっかり考えていますよ。
――……そう言われると、そういうふうに見えてくるから不思議です(笑)。いくつか、「これは見てほしい!」というオススメの植物を教えてください。
たとえば、スリランカ原産の「スリーマハー菩提樹」。インドのブッダガヤに、2000年以上前にお釈迦様が実際にその下に座って悟りを開いたという、菩提樹があるんですよ。その木は残念ながら枯れてしまったんですけど、その兄弟木が、実は紀元前200年以上前に、スリランカの国王によって植えられているんですね。その「スリーマハー菩提樹」と言う名前の木は、今も生きているんです。つまり、樹齢2200年以上。これは正真正銘、その木の子孫なんです。
※「スリーマハー菩提樹」は、お釈迦様がその下に座って悟りを開いた菩提樹の子孫。
――すごい……! 悠久の歴史に思いを馳せてしまいます。
普通に見えるけれど、そういう背景を知るとキラキラと輝いて見えてくる植物もたくさんあります。あとは、「葛性黒竹」という、珍しいつる性の黒竹。今回ここには世界中のいろんな植物が並んでいますが、金額でいったらこれが一番高いかもしれません。
※最も手前が、会場内で最も高額だという、希少な「葛生黒竹」。
――ちなみに、おいくらぐらいするものですか?
500万なのか1000万なのか……。要するに、ここまでくると、もう金額はないんです。手に入れようと思っても、なかなかできませんから。タイの王族のカンポン・タンサッチャ氏が経営している植物園からいただいた、世界でも超貴重な逸品。いわゆる、ワールドクラスの植物です。こういう場所で、初めてみなさんに見ていただきます。それから、これはガウディがかつて建築のモチーフにした「チャメロプス」というヤシの変種です。チャメロプス自体は地中海全体にワーッと自生しているんですけど、この「フミリス‘ボルケーノ’」は、なかでもとても特殊なもの。イタリア・シチリア島の活火山、マウント・エトナの麓にしか生えないんです。普通のチャメロプスと違い、大きくならないコンパクトサイズ。まあ、日本では持っているのはオレだけです(笑)。
※日本で持っているのはオレだけ、と西畠さんが誇らしげに笑う、「チャメロプス フミリス‘ボルケーノ’」。
――本当に、凄みある植物ばかりに触れて、これまでの自分の“常識”がどんどん崩れていく気がします。
世の中には、いろんな種類の“当たり前”があるじゃないですか。日本なら四季があって、葉っぱはこういうものとみなさん思っているけれど、世界に行ったらいろんな環境があり、そこには見たこともないような植物が生えている。まだ飛行機に乗って海外に行ったことのない子どもたちにも、世界にはこんなに面白い植物があるって知ってもらう機会になったらいいなと思います。逆にお年を召した方たちが、たとえば自分でアンデス山脈まで行って、そこに生えている珍しい希少なパイナップルを見るとなると、けっこう大変ですよね。でも、ここ銀座で、そうした世界各国の珍しいものを直に見られる、その楽しさを感じていただけたら。今回は形が面白いのはもちろんのこと、先ほどご紹介したみたいに、それにまつわるストーリーがいちいち面白い植物ばかり。そうした背景に思いを巡らせながら、老若男女問わず多くの人に「やっぱり植物って素敵だな」って思ってもらえるきっかけになったらいいなと思っています。
■展示名:ウルトラ植物博覧会 西畠清順と愉快な植物たち
■開催期間:2015年7月3日(金)~8月16日(日)会期中無休
■開催時間:11:00~20:00(入場は19:30まで) / 入場無料
■開催場所:ポーラ ミュージアム アネックス
〒104-0061 東京都中央区銀座1-7-7 ポーラ銀座ビル3階
■西畠清順プロフィール:
1980年生まれ。幕末より150年続く花と植木の卸問屋、花宇の五代目。日本全国・世界数十カ国を旅し、収集している植物は数千種類。日々集める植物素材で、国内はもとより海外からの依頼も含め年間2000件もの案件に応えている。
2012年、ひとの心に植物を植える活動“そら植物園”をスタートさせ、植物を用いたいろいろなプロジェクトを多数の企業・団体などと各地で展開、反響を呼んでいる。
著書に“教えてくれたのは、植物でした 人生を花やかにするヒント”(徳間書店)
“プラントハンター 命を懸けて花を追う”(徳間書店)
“そらみみ植物園”(東京書籍)
■主催:株式会社 ポーラ・オルビス ホールディングス
■企画:株式会社 ソニー・デジタル エンタテインメント