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政治システムの実験としての民主主義を考えてみた

アメリカ大統領選挙も残るところ僅か。

開票もはじまってないのに、トランプが敗北宣言しないで、共和党の強い最高裁で決議させて逆転勝利を考えているとか、郵便投票の結果を違憲とするとか、武装した過激な応援者に反対派の投票を妨害させるとか、互いの候補を罵り合うばかりで国民はうんざりしていることだろう。

しかし、これは対岸のゴシップニュースではない。

1. 一体、我々が信じ込んでいる民主主義とは何か?

これは、本当にフェアで正しい民意を反映するシステムなのだろうか?Netflixのドキュメンタリー「投票のカラクリ」を観て考え込んでしまった。
https://www.netflix.com/title/81304760

民主主義は、アメリカで244年前の1776年に始まった政治システムに過ぎない。当時は、マスメディアもSNSもなく非常に実験的なものだった。法の元に平等といっても、黒人や女性の参政権はなく、そしていまも州によって投票ルールが違う。

2020年の現代でも、アメリカでは投票には事前の登録が必要であり、州によっては当日しか登録が受け付けられないところもある。登録から投票までに数時間列に並ばなければならず、投票率も低迷している。(日本は非常に簡単に投票できるのにアメリカより投票率が低いのは、民主主義の崩壊危機といえる)

イギリスの経済誌「エコノミスト」(EIU部門)が、世界167か国・地域を対象として民主主義レベルを評価した「Democracy Index 2018」(民主主義指数)をみると、世界の民主主義の割合は48%、独裁政治体制と混合政治体制を合わせると、すでに半数を割っているのが現状だ。

◆参考
世界の民主主義ランキング 日本は民主国家?独裁国家?
https://mieluka.com/144/

日本は世界22位(7.99点)で”欠陥のある民主主義国家”と評価されている。
EIUによる民主主義指数は「選挙過程と多元性、政府機能、政治参加、政治文化、人権擁護」(要するに投票の行われ方、投票率、報道の自由など)という5つのカテゴリーを各0~10点でスコア化し、全体の平均スコアを総合的な評価としている。日本も2014年までは完全民主主義と評価されていた。

東京などは、一票の格差が2倍もあり、すでに憲法に違反しているがまったく是正されない。つまり、民主主義というシステム自体実験的なものであり、時代のアップデートを必要とするものである、と理解する必要がある。

◆参考
1票の格差、衆院で最大2.016倍 2倍超は6選挙区
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62328430V00C20A8PP8000/

さて、そうはいっても民主主義は、時に市政の人たちの”声”に耳を傾け、たくさんの議論を経て、マイノリティの権利を認めてきた歴史がある。独裁政治で理不尽な投獄や国外に出て難民になるような事態は避けられている。

 

2. ネットメディアで危機にさらされる民主主義

前回の2016年のアメリカ大統領選挙で発覚した「ケンブリッジ・アナリティカ事件」を覚えているだろうか。同名の政治コンサルティング会社が、膨大なFacebook上の個人プロフィールを取得し、ブレグジットやドナルド・トランプを支持する政治広告に利用して世論操作したスキャンダルだ。

他にも、アメリカの世論を操作するゲームに参加していると目される国はいくかある。もはや、投票以前に国民がSNSのフィルターバブル機能(都合の良い情報に勝手に誘導される仕組み)を通じて、洗脳された。人は、自分のまわり友達3人が肥満だと自分も肥満になってしまうものだ。

◆参考
ケンブリッジ・アナリティカ事件の当事者が語る「民主主義をハックする」方法(植田かもめ)
https://note.com/tuttlemori/n/nca7d25f51a9c

Netflix「グレーとハック: SNS史上最悪のスキャンダル」
https://www.netflix.com/title/80117542

アメリカ国務省は、今回の大統領選ではロシア、イランからのハッキングに備えた。サイバー攻撃を通じて選挙介入した外国勢力の情報提供につき、最大1000万ドル(約10億5791万円)の報奨金を出すと呼びかけた。
主な手法は3つ。

・関係者へのフィシングによる内部情報の取得
・SNSを利用した偽情報や感情的反応を引き起こす情報の大量流布
・選挙関連インフラ等に対するサイバー攻撃

◆参考
ロシアによる政治介入型のサイバー活動~2016年アメリカ大統領選挙介入の手法と意図~
https://www.spf.org/iina/articles/kawaguchi_01.html

米大統領選「ロシア介入」は本当に防げるのか セキュリティ予算をコロナ対策に回す州も
https://toyokeizai.net/articles/-/372012

 

3. これからの民主主義
我々はこの244年前に作られた民主主義を21世紀のネット世界に即した方法で変えていかなければならない。

成田助教授のコラムが面白い。
民主主義は、時代の社会変化や技術の進化に合わせて変えていくべきという。そうでないと、近年のアメリカのようにSNSを操作して世論を作り上げることもできる。

3つの提案がなされている。

・リキッドデモクラシー(液体民主主義)
徹底してDX化された時代の投票は、すべてネット投票に集約させる。1票を分解して0.1刻みで政策ごとに投票させる。政治家や政党ごとに投票するのではなく、子育てや年金、働き方といった個別の論点に対して興味や利害に応じて投票。

人物本位より政策本位になるようなるので、与党と野党ではなく小さくても多様性のある問題解決ができる方法。

・データ民主主義
選挙をやめてしまう。選挙は、お祭りに近い精神構造を人に植え付けるしまうので、どうしても他人の考えに引っ張られやすい。そこで、有権者、国民の無意識の欲求データをひたすら収集する。

データの収集法は、各個人の過去の選挙行動、SNS、街頭に設置された監視カメラから、人々の振る舞いや発言がデータとして採取。人々が街中でどんな声で何を語りどんな意思を表明しているか聞き耳をたてる。その中の隠れた声を見つけ出す。

・迂回民主主義
重大な決定や変革をできるだけ民主的な手続きを経ず、一部の「強者」が行えるようにする。
民主的な最大公約数のみで政策を決めることでイノベーションを阻害する、という考え方。

万人に平等に権利が与えられる民主主義という制度は、特異な才能や経験を持った人間がフロンティアを切り開き、価値や差異を生成するのを阻害する制度である。そんな民主主義のプロセスはできるだけ「迂回(うかい)」しようという考え方。

◆参考 イエール大・成田悠輔助教授「選挙も政治家も、本当に必要ですか」
https://globe.asahi.com/article/13857057

 

4. まとめ
いま、私たちが考える”民主主義”は、21世紀のインフラに合わなくなってきている、という感じがわかってもらえましたか?

これまでの民主主義が解決した人々の不平等を、これからも進めていくために時代にあった民主主義に変えていくべきでしょう。それには、いくつかの方針が必要と思う。

・国家ごとのDX(デジタル・トランスォーメーション)
スマートフォンの利用料金の低減によるデジタル格差の是正
書類・押印・役所への届け出作業など合理的にし、無駄をなくす。
ネット投票が実現できるインフラ・社会を作る。

・ICTをベースとした新しいグローバリゼーション
DXが進んだ他国家と提携し、コロナで後退したグローバリゼーションをデジタル力により推進する。
ワクチン開発の共有化、人の移動のフレキシビリティ、エストニアのような優れた外国の頭脳
を取り込む、など。日本のように少子高齢化に大して、海外の若い労働力だけでなく、ネットを通じた頭脳を大胆に政策遂行に活用していく。

・多様性(ダイバーシティ)を活用した政策遂行
一方的で中央集権的な予算配分による政策実施だけでなく、ユビキタス(偏在的)に予算執行できるネットインフラをつくる。
民活(技術)による提携、クラウドファンディングを活用したマイナーな政策も実行できる仕組みづくり、コンストラクティブ・ジャーナリズムによる早期の問題解決、など

◆参考
デンマーク初の「コンストラクティブ・ジャーナリスズム」(建設的報道)とは?
http://spdy.jp/news/s5775/

最後に、京都大学iPS細胞研究所所長である山中伸弥 教授の言葉を引用しておく。
「ダーウィンは、進化の中で生き残るのは、いちばん強い者でも、いちばん頭がよい者でもなく、いちばん適応力がある者であると言いました。

適応力は、多様性をどれだけ保てるかにかかっています。ところが今、人間はその多様性を否定しつつあるのではないか。僕たちの判断で、僕たちがいいと思う方向へ生物を作りかえつつあると感じています。

生物が多様性を失い、均一化が進むと、ちょっと環境が変わったとき、たちどころに弱さを露呈してしまいます。日進月歩で技術が進む現代社会は、深刻な危うさを孕んでいると思います。」