鈴木大拙とスティーブ・ジョブスの点と線
金沢にある「鈴木大拙」館(すずき だいせつ)に来た!(石川県 1870年- 1966年)
「禅」についての著作を英語で著し、日本の禅文化を海外に広く知らしめた。著書約100冊の内23冊を英文で書いた。生前、1963年にノーベル平和賞の候補に挙がっていたものの、受賞を逸している。
大拙の思索の大事なコンセプトは「霊性の自覚」(spirituality)にあった。これは「肉体」と対になる概念で、ヒトの優れた個性や超人的な「力能」(power)を磨くことにある。これが「禅」(zen)思想の根本にある。
大拙が欧米に持ち込んだ「禅」は、その後 日本ではオウムなどの新興宗教によって曲解され、日本では忘れ去られる。
しかし欧米では「禅」を「禅」としてではなく「マインドフルネス」として再発見した。
1979年にマサチューセッツ大学医学大学院の教授であるジョン・カバット・ジン(1944年6月5日-)が、心理学の技法として体系化した。「マインドフルネス」は「禅」の宗教性を排した「心の瞑想」を軸にしたことで一般化したのだ。
後年、スティーブ・ジョブスが「禅」に傾倒したのは、大拙が普及させた欧米の「禅」を引き継ぐ禅僧である乙川弘文(新潟県 1938年 – 2002年)との出会いがある。
乙川弘文は、1967年に渡米。カリフォルニア州にあったタサハラ禅マウンテンセンターで活動を始める。ジョブズは、その数年後の1970年前後に弘文と出会っている。
弘文は、剃髪(ていはつ)もせず、2度の結婚と同棲を繰り返し、酒にもお金にもルーズだった。およそ僧侶のイメージからはほど遠い弘文にジョブズは心惹かれた。時代はヒッピー文化。過去のレガシーがリセットされ、新しい自由が到来した時代だった。
実は、過去がリセットされたという点において、70年代のヒッピームーブメントとコロナ禍の状況は似ている。「禅」は「いまを生きるためのツール」である。過去も未来もなく、只いまの呼吸や脳裏に浮かんだものをキャプチャーしていく。
前例のない時代のはじまりにあたり「禅」を知るのも悪くないと思う。
この可能性に満ちたツールを世界的に広めた鈴木大拙の記念館を訪ねて、いっそう刺激をうけた。
みなさんも是非!