映画『ウエスト・サイドストーリー』に見るストリート系都市の在り方
映画『ウエスト・サイドストーリー』を観た。
1950年代後半、再開発が進むニューヨーク、マンハッタン西部で、ポーランド系の不良集団とプエルトリコ系移民の不良集団の対立が描かれている。ここでは映画の論評はしない。都市開発の考え方の話しをしたい。
この時期のニューヨークは、悪名高いのデベロッパー ロバート・モーゼスによって、庶民が強引に立ち退きを迫られ、コミュニティは消失し、至る所に危険地帯が生じていた。モーゼスは、お金儲けのために権力を最大限行使し、高層マンションを立て続けた。
そこに反旗を翻したのが、ジェイン・ジェイコブズだった。彼女は、モーゼスの横暴に対して、市民活動家として徹底的に戦った。街は不動産屋の拝金主義で死ぬと説いた。貧困層や移民たちは立ち上がり、ニューヨークに住む人々のコミュニティを守った。詳しくは、『アメリカ大都市の死と生』(1961年)参照。
映画の原作となったミュージカル舞台の初演は1957年初演。
1950年代後半のマンハッタン西部は、移民や低所得者たちの町で、まさにロバート・モーゼスによって破壊されたところである。貧困と差別の中、どこへも行くことができない若者たちが縄張り争いに明け暮れるのも無理はなかったのだ。
1950年代のアメリカは経済的にも、文化的にもひとつの黄金期を迎える一方で、50年代半ばから60年代にかけて公民権運動が巻き起こり、人種差別の撤廃に向けて揺れ動く激動の時代だった。
ジェイン・ジェイコブズが都市の多様性を確保する条件を下記の4つと考えていた。
1. 混用地域の必要性(ゾーニングさせない)
一つの地域を住宅地やオフィス街など単一の用途に限定させず、2つ以上の機能を持つべきである。これは近代に対する批判である。
2. 小規模ブロックの必要性(横丁文化)
いくつものルートが利用できることで、そのつど新しい発見がある。大規模開発によるブロック化はコミュニティを潰す。
3. 古い建物の必要性(文化・歴史を大切にする)
新しい建物ばかりでは、儲けの多い事業しか存在できなくなってしまう。再開発により一気に街が更新されてしまうことへの批判であり、古い建物も残した多様な都市をイメージ。
4. 集中の必要性(人の多様性)
高い人口密度で、子供、高齢者、企業家、学生、芸術家など多様な人々がコンパクトな都市に生活するべきである。
この考えは決して半世紀前だけの話ではない。現在の日本でも必要な考え方である。タワマンの乱立は、青空も商店街もコミュニティも無くし、文明・文化を衰退させていくだろう。地下鉄が縦横無尽に存在することで、車社会の影響がなく、商店街が一番残ったのが東京なのである。東京がマンハッタンのような文化を残すためには、中央線沿いの街や、神保町、秋葉原のような街が大切なのだ。
都市は、縦ではなく左右に広がっていかないといけない。ジェイコブズの原則は今も必要な条件と言えるだろう。