漫画家 矢口高雄さん逝去、心より安らかに…。
漫画家 矢口高雄先生が亡くなられた。
矢口先生と最初にお会いしたのは、2004年だったと思う。当時わたしが経営していた会社の顧問だった内田勝さん(故人)が紹介してくれた。確か自由が丘の事務所に伺ったと思う。
当時スマホはなく、たった3.5インチのガラケーしか存在していなかったが、KDDIが月額料金の定額制をはじめるにあたり、その目玉コンテンツとして、電子コミック(コマ送りで読めるサービス)と着うた(それまでメロディだけだった着信音が本物の歌になった)が期待されていた。
わたしは、サービス開始前にできるだけ巨匠のコミック作品のデジタル化権が欲しかった。
しかし昔に書かれた作品の著者と出版社との契約には、未来の電子の世界の権利については書かれていない。出版社は、昔の苦労を盾に作家がデジタル化権(自動公衆送信権)を自由にわたしのようなIT事業者に二次販売することを懸念し、いじわるを繰り返していた。
挑戦者であるわたしは、水木しげる先生、楳図かずお先生、藤子不二雄A先生、松本零士先生、つげ義春先生などに直接アプローチし好感触を得ていた。そんな中、矢口先生にもお会いしたのだった。もちろん、そんな過激なことをしたので大手出版社からは出禁になった。
矢口先生は元銀行マンだったので、紙の作品の電子化について、すぐに理解してくれた。
そして、特に好きな作品として『激濤 Magnitude 7.7』(げきとう)をあげられた。
日本海中部地震を題材とした漫画で、1989年から1990年にかけて小学館「ビッグコミック」で連載されていたが、すでに絶版となり古本以外読む方法がなかった。
本作は、1983年5月26日正午頃に発生した日本海中部地震の際、海釣りをしていて津波に飲まれ、辛うじて助かった主人公 新聞記者の杉村真が、秋田県内で津波に遭遇した人々を訪ね歩いて彼らの体験談を聞いていく話だ。
その後の東日本大震災(2011年)を予見したかのようなリアリティのあるストーリーテリングである。
作品が電子配信されることで、再び若い読者が作品を読めることを、矢口先生は本当に喜んでくれた。わたしは、作家の有名作品だけでなく、すべての作品のデジタル化を約束し実行した。その数は109万ページに及んだ。
あのときのあの優しい笑顔、決して忘れないと思う。
天国でも好きな釣りを楽しんでください。
心よりご冥福をお祈りします。
◆参考
「釣りキチ三平」 漫画家 矢口高雄さん死去 | NHKニュース
https://www3.nhk.or.jp/…/20201125/k10012730031000.html