喝采の根拠 : ヒットの法則について考えてみた
尊敬するマーケッターの先輩である小谷正一さんの本で「当らん・当り・当る・当る・当れ・当れ―喝采の実証」 (1972年) という半世紀前の本がある。小谷さんの素晴らしい実績はおいといて。
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この本の冒頭にこんな一節がある。
「当る、ということこそ、私たちの職業の唯一の掟である。大衆の拍手喝采が、この芸術のただ一つの目的なのだ」(ルイ・ジューヴェ)
エンタメ業界にいると誰もがヒットの秘訣を知りたい。
わたしも30年以上エンタメ業界におり、幸運なことにいくつかヒットをつくりだしている。かといって、インタビューでその秘訣を聞かれると、はっきりした喝采の根拠を示せない。
確実に言えるのは、ヒットの配当より、破られる馬券の方が多いということだ。数学得意な大学生がラスベガスのカジノに確率論をひっさげて的中させても、それをエンタメ業界に当てはめてヒットを続けたマーケッターはいない。
「あのヒットコンテンツ、サービスの構想は自分も持っていたんだよね」って言う人は、外れ馬券さえ持っていない。
かといって、たくさん失敗したら成功の確率が上がるのかといえば、その法則もない。
「ヒットとは、人の心を読むこと」と喝破した先輩もいたが、そんなことXメンでも難しい。わたしは、他人の心を読むなどという想像しても無駄なことはしない。
ヒットを出すのは難しい。
でも敢えて言おう。
ヒットの秘訣は、自分の中にある、と思う。
自分の中の最良の読者、消費者、リスナーとの対話を通じて作り出したコンセプトだけが最強の武器になる。
誰かの望むものではなく、自分の望むもの。
そして、自分の中には、たくさんのユニークな人や気に入らない出来事や”社会”そのものがある。自分の中にそういう”社会”がないと自分のやりたいことも新しいコンセプトも湧いてこない。
だから、旅をして、恋をして、人と話して、寄り道をしないといけないのだ。自分の中にアクティブな世界を持っているとヒットをだせる。
がっちゃん(GaKu)の絵を見ていると、新しい可能性を感じる。がっちゃんは、ギフテッドである。誰かに見てもらおうと思って絵を描いてない。自分のためにしか描いてない。アウトサイダーアートの可能性は、そこにある。
エンタメ業界のマーケッターの失われた感性を取り戻すためにも、がっちゃんの絵と描き続けるエネルギーは考えさせられるものがある。
ありがとう。