美しさを失った小野小町が、たどり着いた場所。

山形県米沢の山奥にある秘湯を訪ねた。
小野川温泉にある共同浴場「尼湯(あまゆ)」。
絶世の美女として知られる小野小町は、約1200年前の西暦834年、行方の分からない父を捜して、京都から東北へ向かっていた。
しかし、長い旅の途中で病に倒れてしまう。すると夢枕に薬師如来が現れ、「小野川に、病を癒やすいで湯がある」と告げたという。
そのお告げを信じて小野川へ向かった小町だったが、途中で道に迷ってしまう。すると、袖に触れた葦の葉が片側だけ落ち、まるで道しるべのように進むべき方向を示した。
ようやく川にたどり着き、水面をのぞき込むと、病と旅の疲れで、絶世の美女と呼ばれた面影は失われ、鬼のような顔が映っていたという。
小町がお告げどおり川辺を掘ると、そこから温泉が湧き出した。その湯に浸かると病は癒え、かつての美しさも取り戻した――。
現在の共同浴場「尼湯」は、小野小町がその温泉を発見した場所だと伝えられている。今も地元の人々が日常的に通う素朴な共同浴場で、入浴料はわずか200円。
お湯は源泉かけ流し。約80度の高温源泉と約36度の低温源泉を混ぜて温度を調整しているため、加水せず、温泉本来の成分をしっかり味わえる。硫黄の香りが漂う、ナトリウム・カルシウムを含んだ湯。
それでも私が訪れたときの湯船は約46度。驚くほど熱く、肌にピリッとくる力強いお湯だった。
「花の色は うつりにけりな いたづらに
わが身世にふる ながめせしまに」
花の色と自らの美しさが移ろいゆく儚さを詠んだ、小野小町の歌。
その小町が病を癒やし、失われた美しさを取り戻したと伝わる湯が、約1200年を経た今も、米沢の山奥にこんこんと湧き続けている。





