東京オリンピック開会式に関する雑感(ブランドコンサルタント 福田 淳)
東京オリンピック開会式に関する雑感。
わたしは生来オリンピックに関心がなく、生まれて一度も見たことなかった。
しかし開会式について、ここまで多くの不祥事に見舞われたことで、エンタメ業界人として開会式に興味がわいた。昨夜は4時間じっくり見てしまった。
これは、オリンピックの意義の話ではなく、イベントプロデュース的な視点で見た雑感である。
皮肉を交えていうと、昨夜の開会式は、いまの日本を余すことなく表していたと思う。
それは「リーダーの不在」である。
イベントに限らず組織が大きくなればなるほど、そこで働く人はリードするよりマネージする傾向が強くなるものだ。これは誰のせいでもなく、人間、組織の特性なのだろう。ドラマ「半沢直樹」でも、大きなプロジェクトはごく少人数のチームに任せていた。その方が成功確率があがるからだ。「スタートレック」のカーク船長も1000人の従業員にはチーム毎に専門の責任者をアサインし、自らは新規案件に専念し少人数で危険な惑星に出向いて問題解決している。
経営論の中に「30人の壁」という言葉がある。メンバーが30人を超えると一人のリーダーが管理できる能力を超えてしまう。逆に言うと30人を仕切れるリーダーを置き、それを30個つくって、900人のリーダーになることはできる。そういう自律的なサイロを組み合わせて、より大きなプロジェクトをこなしていくわけだ。
オリンピックくらいのイベントなら本来小さな組織で意思決定した方が大きな成果あげられるのではないか。選手入場の2時間は定番とし、残りの前後1-2時間の演出をどうするか、というところだ。
わたしがブロジェクトリーダーなら、基本コンセプトを「21世紀のオリンピア精神」として、以下の3つのコンセプトを打ち出したい。
1. 「健康増進」
この「東京五輪2020」の招致は、2011年6月17日に行われた石原慎太郎氏の所信表明演説に遡る。彼は、三島由紀夫のコラム「東京オリンピック」に触発され、世界最高の健康・肉体の素晴らしさを日本から見せたいと思ったのだ。
それを継承した猪瀬直樹氏が実現させた。両者とも作家であるというころがポイント。糖尿病を減らすだけでも3超円の税金投入がなくなるという試算もある。健康を啓蒙するのがオリンピックの第一義と思う。シルクドソレイユのような究極の肉体を駆使したエンタメショウを見せてもいい。
2. 「多様性」
Black lives matter、ジェンダーギャップをなくすというテーマ。女性蔑視、いじめ、ホロコーストなど直前に多くのイシューがでてきたが、それゆえに多くの試合において、世界中の選手が頑張った末、勝っても負けてもそれぞれの人間が持つ能力の素晴らしさを再認識できるイベントになるはずだ。
勝負に負けたけど新しい価値に気づいた人、勝負に勝って得た価値に気づいたかつてのアスリートたちのインタビューを短くたくさん見せられたらいいな。
3. 「科学の未来」
人類はコロナに見舞われ、再起動を余儀なくさせられた。しかし、今後も人類は文明を推し進めていくだろう。そのためには科学の力をもっと強くしていかなければならない。パラリンピックにおいては、ウェアラブルデバイスによる人の能力の拡張もテーマになる。凄い選手のVRやホログラムによる再現なんか面白いかもしれない。
さらに、AIを活用したゲノム編集やmRNAの開発などヘルステックの未来を表現するようなプロジェクションマッピングやドローンの表現も面白い。
こういうわくわくするテーマを表現できる場所として「開会式」を捉えていれば、表面的なスローガンだけではなく、オリンピックに関心ない人たちにもアテンションを与えられるのではないか。
強いリーダーシップと美しいストーリー、コンセプトがないと、どんなイベントも成功しないと思う。
そういう意味で、わたしは、いまでもMIKIKO案がみてみたい。
◆参考
『AKIRA』主人公のバイクが… 渡辺直美も絶賛した「MIKIKOチーム開会式案」の全貌
https://bunshun.jp/articles/-/44482