マーケティング100年の歴史 : 大量生産からD2Cまで
長くマーケティングの世界にいる。
時代時代に流行り廃りがあるが、いまはD2C(Direct to Consumer)をはじめないと”遅れてる”人になる。
1908年、アメリカのフォード社が世界で最初の大量生産の自動車「T型フォード」を発売。この時に行ったチャネル・プロモーションが世界最初のマーケティングだった。
それから100年の間にマーケティングの世界は、新しいテクノロジーに付随して誕生した新しいメディアを活用してきた。
わたしが社会に出た1989年は、テレビ全盛の時代で、運良く その代表ともいえる「コカ・コーラ」CMのプロダクションマネージャーをやらせてもらった。良いCMを作ると、商品もじゃんじゃん売れた。全国CMがうてる企業とそうでない企業の格差がはっきりとしていた。
↑1988年。筆者は左から2番目。その右隣が坂田耕さん(マッキャンエリクソン博報堂)
そして、21世紀となり日本ではガラケー(モバイルインターネット)が登場した。世界的にはPC中心の展開だったが、2010年のスマホ(iPhone)の出現により、モバイルメディアが主流となる。
携帯キャリアが料金定額制を導入すると(2003年)、iモードのような有料コンテンツだけではなく、広告付きの無料配信もはじまった。といってもクライアントは出会い系かアダルトコンテンツが殆どだったが…。
2006年、わたしは世界最大のクライアントP&Gと一緒に専用のモバイルメディアを立ち上げ、大きな実績を残すことができた。
◆ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントがP&Gと協働して
フリーモバイルマガジン「ヒトコト」を“創刊”!
https://www.sonypictures.jp/corp/press/2007-03-13
2009年、マーケティングの神さまP&GのCMO ジム・ステンゲル(世界で最初のCMO)から、シンシナティ本社で優秀賞をもらうことになる。
◆「本当のブランド理念について語ろう」ジム・ ステンゲル
https://www.amazon.co.jp/dp/B00CPKUY8G
そこから更に、SNSが勃興し、YouTuberやインスタグラマーと呼ばれるインフルエンサー(KOL)が自ら強いメディアを持てる時代になった。
コロナになってテレビ不況が鮮明になった。ドラマの収録ができず、ドラマはリピートで新作が作られない。タレントは、ドラマに出ないと”印象”をアピールすることができないのでCM起用が減る。
近年、一部のタレントはYouTubeを開設したり、SNSの伸ばし方を研究したりしている。この1年で多くのタレントが大手事務所を退所し自ら事務所を作っているのもその流れの一部とみている。みんな、テレビだけじゃ生きていけないのだ。
しかし残念ながら、テレビ業界は長く閉鎖社会におり、”おれおまえ”の関係だけで仕事をしていたので、社会の急激な嗜好の変化に気付かないままなのである。
その隙をついて、SNSスターたちが大きな存在感と世間からの支持を得るようになった。
ソーシャルネットワークは、テレビメディアと比較にならないほど安価にメディアを立ち上げられる。TicTokなどは、フォロワーがゼロでも、面白い動画を作れば、100万人単位の視聴者を得ることができる。
◆最も稼ぐTikTokスター、19歳で年収5億円 フォーブス初のランキング
https://forbesjapan.com/articles/detail/36329
勉強熱心なクライアントは、それらのインフルエンサーとアドテク(ウォール街の取引のようにAIが自動生成する広告)を駆使して、安価な広告費で大きなマーケティング効果を得ている。
テレビ全盛の時代が長かったとはいえ、1960年から2020年までの半世紀あまりの歴史に過ぎない。
クライアントは、かつて大量生産・大量消費を前提に、より大きなメディアからより大きな効果を期待したマーケティング活動から、消費者に長く愛されるブランデット商品の開発や少量でも高付加価値な商品開発にシフトしている。
ただ、大手クライアントも安穏としていられない。最近の一部のインフルエンサーは、もはやクライアント仕事もしない。消費者と一番近いところにいる彼らは、自ら商品を企画し開発し、自分で宣伝・販売をはじめたのだ。無数のプライベート商品が開発されている。
先日聞いた話だと「ヘラヘラ三銃士」などは、クライアントが仕事を依頼しても半年以上の待ちという。
https://www.youtube.com/channel/UCI0xPNkgivK-FCcaCYDC8Yg
「たなかです」は焼き芋を売るというフレームから関連したコマースを立ち上げ商品は即完売。
https://tanakadesu.theshop.jp/items/28395166
「げんじ/Genji」はスマホの”ジャパネットたかた”との言われるほどの人気!
https://www.youtube.com/channel/UCXrp0H7BPBHx2YTYMiiKEAA
もちろん、その規模は大手クライアントがつくる商品のスケールとは比べものならないが、フォロワー30万人程度のインフルエンサーでも、年に3-5千万円の稼ぎを得ている。タレントの働き方改革である。
クラアイアンもメディアも含め、大きな企業だけで社会は成立しなくなった。
小規模でも、社会のニーズを的確にとらえ、潤いを与えることができるなら、それはそれで成立する新しい社会ができつつあるのだろう。
* D2Cとは、自社で企画・製造した商品を、小売業者などを介さずに、自社で制作したECサイトで直接消費者に販売する仕組みのこと。
広告不況のなか、媒体社の「 コマース 事業」が救いの神に:「ビジネスを牽引する原動力になりつつある」
https://digiday.jp/publishers/how-a-new-order-of-commerce-is-increasingly-coming-to-the-rescue-for-publishers-with-advertising-challenges/